宅地造成及び特定盛土等規制法について
1.盛土規制法の概要
令和6年(2023年)5月、『宅地造成等規制法』が抜本的に改正され、「宅地造成及び特定盛土等規制法(以下、盛土規制法)」が施行されました。
盛土規制法は、盛土等によって引き起こされる災害から国民の生命・身体を守るため、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する法律です。
2.改正の背景
盛土による事故は過去に何度も発生してきましが、なかでもこの法律の制定に大きく影響を及ぼした出来事が、2021年7月、静岡県熱海市で発生した土石流災害です。この土石流は、不適切な盛土が大雨で崩壊したことが原因で、28名もの人命が失われました。
土地の開発を規制する法律は、宅地造成等規制法、森林法、農地法などがありましたが、各法律が「宅地の案件確保」、「森林機能の保全」、「農地の保全」というように目的が異なっていました。
宅造法では、知事が規制区域を指定し、その規制区域内で宅地の造成工事を行う場合には、許可が義務つけられていましたが、熱海市の土石流原発地点の盛土は、宅造法の規制の対象外でした。また現場は森林、農地のいずれにもあたらない場所で、森林法、農地法でも規制できませんでした。
このように従来の法律では危険な盛土を規制できないエリアが存在することを踏まえ、土地の用途にかかわらず、人家に被害を及ぼす可能性のある危険な盛土等を包括的に規制することが急務となり、「盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)」へ改正されました。
3.規制区域
盛土規制法による規制区域は「宅地造成等工事規制区域」と「特定盛土等規制区域」の2種類です。
・宅地造成等工事規制区域…市街地や集落、その周辺など、人家等が存在するエリアについて、森林や農地を含めて広く指定
・特定盛土等規制区域…市街地や集落等から離れているが、地形等の条件から人家等に危害を及ぼしうるエリア(斜面地等)を指定
規制区域の指定を行うのは都道府県知事や政令指定都市・中核市の市長です。
例)東京都の規制区域指定状況
都のほぼ全域が宅造法規制区域又は盛土規制法規制区域のどちらかに指定されています。
東京都WEBサイト 基礎調査結果(規制区域)より引用
4.規制される行為
国土交通省 盛土規制法パンフレットより引用
5.盛土規制法と旧宅造法との違い
盛土規制法 | 旧宅造法 | |
規制される地区 | ・宅地
・森林 ・農地 ・その他土地 |
・宅地のみ |
規制される行為 | ・宅地造成工事
・宅地造成以外のための盛土 ・切土 ・捨土 ・一時堆積 |
・宅地造成工事のみ |
6.許可の基準1)制定の経緯及び目的
規制区域で盛土や捨土を行うには、都道府県知事等の許可が必要となります。
区 域 | 行 為 | 届 出 | 許 可 |
---|---|---|---|
宅 地 造 成 等 工 事 規 制 区 域 |
︵ 盛 土 ・ 切 土 ︶ 土
地 の 区 画 形 質 の 変 更 |
— | ① 盛土で高さ1m超の崖 ② 切土で高さ2m超の崖 ③ 盛土と切土を同時に行って、高さ2m超の崖(①、②を除く) ④ 盛土で高さ2m超(①、③を除く) ⑤ 盛土または切土の面積500㎡超(①〜④を除く) |
土
石 の 堆 積 一 |
— | ① 堆積の高さ2m超かつ面積300㎡超 ② 堆積の面積500㎡超 |
|
特 定 盛 土 等 規 制 区 域 |
︵
盛 土 ・ 切 土 ︶ 土 |
① 盛土で高さ1m超の崖 ② 切土で高さ2m超の崖 ③ 盛土と切土を同時に行って、高さ2m超の崖(①、②を除く) ④ 盛土で高さ2m超(①、③を除く) ⑤ 盛土または切土の面積500㎡超(①〜④を除く) |
① 盛土で高さ2m超の崖 ② 切土で高さ5m超の崖 ③ 盛土と切土を同時に行って、高さ5m超の崖(①、②を除く) ④ 盛土で高さ5m超(①、③を除く) ⑤ 盛土または切土の面積3000㎡超(①〜④を除く) |
土
石 の 堆 積 一 |
① 堆積の高さ2m超かつ面積300㎡超 ② 堆積の面積500㎡超 |
① 堆積の高さ5m超かつ面積1500㎡超 ② 堆積の面積3000㎡超 |
許可基準のポイントは次のとおりです。
- 対象区域の地形や地質に応じた「擁壁の設置」「排水施設の設置」「地盤の締め固め」などの安全基準に適合すること。
- 土砂の一時堆積の場合、堆積の高さや斜面の勾配、境界柵の設置などの基準に適合すること。
- 許可基準に沿って安全対策が行われているか確認するため、事業者に「施工状況の定期報告」を義務づけ、施工中の「中間検査」と工事完了時の「完了検査」を実施すること。
- 工事主の資力や信用、工事施工者の能力も審査されます。
- 土地所有者等(土地の所有者のほか、管理者、占有者)全員の同意と、説明会の開催など周辺住民への事前周知すること。
7.擁壁の設置について
盛土、切土により崖(※1)が生じる場合は、擁壁又は崖面崩落防止施設を設置することが許可要件となります。
使用可能な擁壁の種類
- 鉄筋コンクリート造(政令により定められた基準による)
- 無筋コンクリート造( 〃 )
- 間知石積み造、その他練積み造( 〃 )
- 大臣認定擁壁(※2)
※1 「崖」とは、地表面が水平に対して30°を超える角度をなす土地で、硬岩盤(風化の激しいものを除く)以外のものをいいます。
※2 大臣認定擁壁とは、宅地造成及び特定盛土等規制法施行令第17条の規定により、構造材料又は構造方法が同施行令第8条第1項第2号及び第9条から第12条までの規定によらず、国土交通大臣がこれらの規定による擁壁と同等以上の効力があると認めた擁壁のことです。
【大臣認定擁壁の特徴】
- 宅地造成等工事規制区域又は特定盛土等規制区域内の擁壁として適用可能
- 宅地造成等工事規制区域又は特定盛土等規制区域外であっても、開発許可及び建築確認申請時に建築基準法施行令第142条第1項第5号に適合するものとして使用可能